No.165 「歴史的転換点」 2012(平成24)年4月号掲載


 歴史的転換点。数年前から頻繁に聞くようになったフレーズです。特に最近の円高傾向を反映して為替相場のチャート分析記事などでも頻繁に目にします。そもそも歴史的とは、後世に残る程の強いインパクトのある事象を指している筈ですから、そうそう簡単に使用されると何だか本来の意味からかけ離れて安い感じがします。

 比喩表現として見てみると、未曾有、前代未聞、史上空前などは類似のカテゴリーに属するかもしれませんが、これらの表現は限定的な範囲の中で過去に類似の事象の有無を言っているだけなので割りと気軽に使われていますし、違和感を感じることもそれ程多く有りません。

 対して、歴史的転換点と言われると、複雑に絡み合う事象を総合的に分析した後に全体のトレンドが大きく方向転換をしたと断言しているような印象を抱きます。

 例えば、先の震災での原子力発電所事故を経て、原子力行政が大きな転換点を迎えたと言えば、正にその通りで、あの日を境にそれまでとは世界が全く変わってしまいました。未だに今後の議論が尽きないところですが、故郷を奪われた人々が大勢おられ、決して忘れることの出来ない現実が眼前にある訳ですから、まさにこれは歴史的な転換点だと言えるでしょう。

 では、円高、アジア勢の台頭など、日本企業の国際競争力について苦戦が伝えられて久しいですが、日本経済や産業界も歴史的な転換点を迎えたと言ってよいのでしょうか?

 世界人口が40億人だった1970年代は、10億人の先進国とそれ以外の30億人の世界があって、競争環境も現在と比べれば限られた範囲でした。しかし、世界人口は既に65億人を超え、情報化社会が猛スピードでグローバルに進展し、新興国が経済的に発展を遂げていく現代では、競争相手が一気に増加し、過去の安定的でゆったりとした時間の流れはもう望むべくもありません。つまり、今は昔感じた「転換点」という事象それそのものが絶え間なく押し寄せる時代になってきており、歴史的転換点という言葉自体が、企業間の競争の世界では前時代的な感覚に基づくものとも言える社会になったのではないでしょうか。

 工作機械業界も毎日が転換点。懐古している余裕などなく、押し寄せる変化に対応して参ります。