No.173 技術と感性との融合 2014(平成26)年4月号掲載


 私はスーパーカー世代、子供心にリトラクタブルヘッドライトのかっこいいクルマたちに胸躍らせておりました。自動車産業のお手伝いをすることが多い工作機械の仕事の中で英国のF1 工場をお邪魔する機会もあり、そこで目にする極限まで絞られたマシンの造形にはこれまた心奪われるものです。

 さて、F1 は競争競技であり厳密なルールの元に行われます。近年のF1 は危険な程に速くなった点を考慮して性能調整が行われています。回生エネルギーの利用、電気制御空力デバイスの活用、更なる安全性の向上等々、F1 はハイテクデバイスてんこ盛りの競技です。時代の要請で今年からエンジンが縮小されました。その代わり緻密に制御された過給機の付加でパワーダウンを補っています。結果、ラップタイムのダウン量も驚くほどでもありません。また、レース中のバトルも増加しているように思います。

 でも、安全性を重視したルール改定の影響でデザインが制限を受け、マシンは直観的に「美しい」と感じる姿から遠くなったように思います。また過給機付き小排気量エンジンでは、以前の頭のテッペンからつま先までシビれたエクゾーストノートが全く別モノに変わってしまいました。レースの戦略性の点ではより高度化し面白くなってとは言えますが、アナログ的で直感的に訴えるものはやや薄れた感が否めません。しかし、F1 は、これ迄同様に、技術と感性との高度な融合を目指したエンターテインメントの提供を試行錯誤して続けていくのでしょう。

 切削加工において、例えば古来の木彫りの像を想像して頂くと、のみを揮う彫刻家の創造力とその技術が1本の木に魂を吹き込み、その唯一無二の作品は、アナログ的な感性と技術の結晶と言えます。

 一方、我々の世界では、生産性の追求が大命題です。その上で技術と感性で考えれば、それは例えば多軸化によるワークの複雑形状の加工、3 D 積層造形による設計領域の拡張、完全無人運転対応等々、製造上の制限を如何に拡げた機械を作れるかになるのではないでしょうか。技術と感性が融合した機械は自ずと面構えがいいものです。

 ものづくりはデジタル化で飛躍的に高度な成長を果たして来ました。今後もこの傾向は変わらないでしょう。しかし、もっと彫刻家のようなアナログ的な才能や感性が、デジタル化されたものづくりの現場に必要になってくるのかも知れませんね。