トピックス

OVERRIDE1000%

override1000%

(松浦取締役コラム)

令和4年春号のOVERRIDE1000%

令和4年春号

 複雑な事象でも「これはあいつの責任だ。」と直感的な結論を付けたがる。過度の単純化と呼ばれる現象で、人間の脳にはこの強い認知的処理の衝動があるようです。何かミスが発生した場合、「担当者の不注意のせいだ。」と心で思ってしまうことは避けられません。しかし、個人に責任を集中させてはならぬと、「その部署の教育体制が悪い。」「上司の監督不行き届きのせいだ。」と“柔和な非難”が口を出る。本質は同じだと考えます。さて、本能の赴くままに非難を行えば、改善に向かうのでしょうか?
 往々にして、ミスというのは不注意だけでなく、当事者の心理的条件も含め複雑な条件によって引き起こされます。パイロットの世界は個人の失敗を開示し組織で学習する文化が根付いているそうです。レバーの押し間違い程度のミスでも、第三者機関によって深く分析される。この例では、パイロットにプレッシャーがかかる状況下だと、似た形状のレバーを図らずも操作してしまうことが分かりました。結果的にレバーのグリップ形状変更で、誤操作は根絶。「ボタンの押し間違い」「作業手順の抜け」軽視していた我々のミスの歴史にも組織を進化させる学習機会があったのでしょうか。
 「規律を正すために」「責任を再認識してもらう」人を律することで、実際に減るのはミスではなく、ミスの報告だそうです。知る機会が無ければ学習は出来ず、ミスが再発する。再発の度に非難が強まり、隠蔽体質は加速する。世直しのはずが、真逆の方向に進みかねません。ミスを適切に分析し、組織で学びを共有する。簡単には聞こえますが、非難の衝動と決別する自制心、ミスの開示を促す組織的安全性、これらを確立するのは一筋縄ではいかないと見ています。しかし、このような漸進的な企業を実現できれば怖いものはないはず。飛行機は“最も安全な乗り物”。その裏側で機能する文化に、進化し続ける組織の在り方を見た気がしました。

BACK NUMBER

Page TOP